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映画『アビエイター』 
            …「アサ芸エンタメ!」05年?月号掲載



『アビエイター』

 大富豪ハワード・ヒューズは極端な潔癖症で、例えばドアノブを握るときには約十枚重ねたティッシュの上から、やっとのことで触れたという。そんなヒューズの半生を描いたこの映画で、観客は潔癖症でもないのに、ティッシュ十枚を隔てた上からしか彼の心情に触れることが出来ない。なんとも、もどかしい。
 文字通り、波瀾万丈の生涯。18歳にして莫大な財産を引き継ぎ、当時まだサイレントだった映画に興味を持ち、第一次大戦の空中戦を再現したド迫力の映像を作りたいと考えて、自腹で戦闘機とカメラを大量に購入。かっこよく撮るために飛行機そのものを改造、それをきっかけに今度はより大きくより早い飛行機をつくることにのめりこみ、航空会社を興し、自らの操縦で世界最速の飛行記録を打ち立てていく。
 一方で映画の製作、監督でもヒットを飛ばし、有名女優と次々浮き名を流す。長身の二枚目で、彼自体が時代のアイコン、スターでもあった。
 飛行機の図面がひけて、映画も撮れて、ビジネスのかけひきにも強い。そんなスーパーマン社長は、強迫神経症を抱えていた。潔癖症の症状が顕著になり、やがては他人との接触を拒絶し引きこもるようになる。映画では描かれないが、死ぬまでの二十年は完全な隠匿生活を送り、輸血と薬の乱用を繰り返し、ティッシュの箱を靴代わりにして部屋をうろつき、そこから出ようとしなかったという。
 世界一早く飛んで世界を縮めておきながら、他人を介したばい菌の脅威に震えた。自他の距離の混乱。ヒューズは、五十年以上前に現在の感覚を生きていたのかもしれない。こういう部分に、過去の事実を今取り上げる意味がありそうだが、この映画はすっと通りすぎる。ヒューズの潔癖症を、母親のしつけのトラウマとして簡単に説明してしまうのだ。女体と飛行機を同じように愛でるさまも説明的に描かれるが、果たしてヒューズは普通のセックスなんかしてたんだろうか。
 この脚本、 成功と競争を信奉する国アメリカのシンボル的人物、ヒューズのとらえ方がいかにも浅い。ディカプリオの少々古くさい演技はマッチしたが、スコセッシ監督は脚本とのミスマッチにあえいでいる。ヒューズの恋人にして人望厚き女優キャサリン・ヘップバーンをいやな女に描くあたりはスコセッシらしいし、やっかいな自己を操縦しようとして果せない男は、得意とする題材のはずなんだが。
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by hiromi_machiyama | 2006-08-16 20:06 | 雑誌原稿アーカイヴ
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