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映画『復讐者に憐れみを』 
            …「アサ芸エンタメ!」05年?月号掲載



『復讐者に憐れみを』 

 2005年のお楽しみと言えば春にひかえる愛知万博、ではなくて仏教系香港ノワール『インファナル・アフェア』シリーズ最終章、第三作の公開だが、同じくらい楽しみな第三作がもうひとつ。残酷とロマンの両頭トンカチで観客の頭をごんごん叩き割ってカンヌ映画祭のグランプリをタランティーノ審査委員長からせしめた韓国映画『オールド・ボーイ』、それをニ作めとするパク・チャヌク監督の復讐シリーズの次作が気になる。
 その前に、シリーズ一作め『復讐者に憐れみを』がリバイバル公開となった。 『いま、会いに行きます』の上映館になだれこむ欲情バカップルを横目でにらみ、『オールド・ボーイ』をひとり観たのなら当然、毒を喰らわば皿までだし、観ていなくても二作はまったく別の話だからケンチャナヨ(=問題なし)。あり得ないラッキーな偶然が重なる恋愛映画の常道に対し、あり得ない悪い偶然が押し寄せて増幅、ひどいことになりすぎて時には笑えてしまう、そんな負のエンタテイメントがこの復讐シリーズである。
 姉に移植するための腎臓を求めて闇に落ちる聴覚障害者と、子供を誘拐された叩き上げの社長、二人の男の復讐がよじれて地獄の釜がぱっくり開く。血みどろ臓物みどろの殺し合いの始まりだ。自分と自分の大切な人の少し先の幸せを祈って、良かれと思ってやったことがすべて裏目に出て、ただ今現在の底が抜ける。監督は悪魔のように、登場人物たちの行動を容赦なく裏目に返していく。
 家族への深い愛情。その反転としての強烈な憎しみ。結果生まれる圧倒的な暴力。肉親を破壊された哀しみと対になる肉体の破壊を、寒気を催させずにおかない率直さでさらす。そういった要素を『オールド・ボーイ』と共有してるだけでなく、暴力場面に出前がからむような小ネタの笑いや、幼顔女優(本作では遠藤久美子にちょい似のペ・ドゥナ)の意外なおっぱい登場までもカブっているので、両作品を観るのがおすすめ。
 隣りの住人があえぎ声と勘違いしてオナニーに励んだら、それは病気に苦しむ声だった。そんな場面も、ただのキワモノ狙いじゃない。それぞれの幸福や正義を生真面目なまでに求める反面、他人の痛みに無関心な人間同士を、復讐でむなしくつなげてみせる。コミュニケーションと想像力がブツ切れになった現状への怒りが、この負のエンタテイメントにはひそんでいるのだ。
 続く第三作のタイトルは「親切なクムジャさん」。どんな残酷な親切が描かれるのか、こわいけど待ち遠しい。
by hiromi_machiyama | 2006-08-16 20:20 | 雑誌原稿アーカイヴ
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