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映画『華氏911』 
            …「アサ芸エンタメ!」04年?月号掲載



『華氏911』

 他人の目ン玉で世界を観る。それが映画の楽しみだ。「これが見たかった」と気の合う目ん玉もあれば、自前の脳みそで想像できない世界を見せてくれる目ン玉もある。偏った目ン玉こそ面白かったり。「政治的な立場の偏っている映画は観たくない」なんて言う男が映画ファンを自称するのは不思議な話でしかない。
 小泉純一郎が「観たくない」と宣伝した『華氏911』は、マイケル・ムーア監督の著書「おい、ブッシュ、世界を返せ」の映像版。内容はすでに紹介されまくったから、今さら説明不要でしょう。
 全米公開前から話題だったので、感想を求められた政治や社会の評論家連中には「映画として、ドキュメンタリーとしていかがなものか」とすましてみせるのが早くから流行。あんたにとっての「映画」なんて聞いてないってば。固いネタで一般ウケしたムーアに嫉妬してんだろうけどさ。でも、ジャンルに適合してないからダメってのもヘンだ。芝居でもアニメでもないから、とりあえずドキュメントに分類されるけどこれは、ドキュメントバラエティ+映像エッセイとでも呼ぶべき一本。バリバリの和製英語ですが。
 「すでに知られた話ばかり」も、この映画への不満として定着済み。確かに、日本で報道をていねいに追っかけている人、ほぼ原作と言える著書を読んだ人が驚く要素はない。でも、政治的なこみいった話をてきぱき、かつエモーショナルに語っていく、映像とサウンドの類まれな編集能力はムーアならでは。そもそも、誰もがデジカメで映像記録を残せる時代には、この編集力こそが重要なはず。
 現政権におもねるテレビが絶対に見せない戦争の悲惨な映像を見せながら、テレビしか見ない普通のアメリカ人にメッセージを伝えるのがこの映画の目的。だから、テレビ製作の経験から視聴者には「一回にひとつのことしか伝わらない」をムーアが心得ていて焦点を絞ったと思われるこの映画には、食い足りない部分が多々ある。前作「ボウリング・フォー・コロンバイン」のように、高校生の銃乱射事件が「なぜ我々は銃を持つのか」「なぜ何を恐れているのか」と、疑問が転がり増幅していく面白さがないのだ。
 イラク攻撃についての「必要な戦争もある」という前提の批判に、私はうなづけない。でも、そんなムーアの目ン玉をはずして思いいたったのは、悲惨な映像も普通にニュースで見ていながら、イラク攻撃を支持する政府を「仕方ないじゃん」と眺めている日本人の薄気味悪さだった。
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by hiromi_machiyama | 2006-08-16 21:06 | 雑誌原稿アーカイヴ
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