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「週刊朝日」06年9月22日号掲載原稿
「週刊図書館 あの本」

    『見破られた読書グラフ』(タイトルは編集部)




 一センチ四方に一冊。教室のうしろに掲示された方眼紙に、読んだ本のタイトルを小さく書き込む。そうしてできる、一人一本づつの読書グラフ。私のグラフはクラスで一番長かった。

 小学校4年だったか。父母会から帰った母から報告された。他の母親が教師に、私のグラフに積み上げられた本のタイトルをひとつあげ、「こんな本を読んだわけがない。このグラフは嘘っぽい」とご注進に及んだという。「同じ題の有名な本と間違えてるだけ。これは私が買ってあげた本だって言ってやったわよ」。母は興奮気味だった。

 かあちゃん、ごめん。

 確かに私はその本を読んだ。だが、おせっかいおばさんの指摘は、半分正しい。グラフには、読んでいない本も積んでいたのだ。

 授業中に指導方法に文句をつけ、教師に黒板の真下に机をぴったりつけた状態で授業を受けさせられても、懲りない。そんなくそ生意気なガキとしては、読書家を気取りたかった。でも実態は違い、それは私のコンプレックスだった。

 今も変わりない。理屈っぽいのに、読書経験はまるで貧相。家には、買うには買ったが読み終えていない本が溢れている。あの読書グラフそのままだ。

 さて疑いを受けたのは、イプセンの有名な著書の同名異本、『人形の家』だった。人形たちが主人公の児童書。読み直してみる。

 冒頭から三割近くまで、人形たちのからだや服、持ち物などのディテールの描写がずっと続く。それを追うのは、今も楽しい。「指輪物語」なども手がけた瀬田貞二の少々古めかしくい訳文は、おじいさんが話しかけてくるようで、あの頃と同じく心地いい。

 そして、児童書なのに殺人まがいの事件が起こる、この本の面白いこと。不吉の美、少女と邪気の感応。悪意や邪心が肉感的に描かれ、正義や幸福についても複眼的なのだ。作者のルーマー・ゴッデンが、十二歳までインドで育ったイギリス人女性で、ルノワール監督のインド版若草物語「河」の原作、脚本も書いたと今回知り、納得した。

 私にとっての「人形の家」はこの本と、弘田三枝子の歌でいい。


      『人形の家』
     作  ルーマー・ゴッデン
     訳  瀬田貞二

      映画『河』
     原作 ルーマー・ゴッデン
     監督 ジャン・ルノワール
     脚本 ジャン・ルノワール
        ルーマー・ゴッデン
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by hiromi_machiyama | 2006-10-03 18:55 | 雑誌原稿アーカイヴ
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