カテゴリ
日記
メールはこちら      
雑誌原稿アーカイヴ
活字が・書いた・テレビ
以前の記事
『AERA』06年10月2日号掲載
「安倍首相」の時代と気分
 
  『けんか慣れしていない半べそブルドッグ』(タイトルは編集部)



 



 小泉純一郎に「次、君ね」と決められてしまった。

 安部晋三は、威勢のいいことをぶちあげつつも、「ほんとにボクが総理やるの?」とオロオロする気持ちが隠しきれず、痛ましい。

 腹を下しっぱなしの半べそブルドッグ。一番似合うコスプレは、執事。でも、小泉祭りというショーの、サブキャラクターどまりの人だからこそ、ご指名を受けたんだろう。祭りは続くのだ。

 小泉は安倍を、便利に使ってきた。幹事長に抜擢し、若くて新しい小泉体制のイメージ演出に役立て、最後は「次、君ね」。
 
 小泉のやってきたことを否定しない、路線は変えない、それでいて明らかに力不足。安倍は、「やっぱり小泉さんはすごかった」と言われ続けることになる。

 小泉には好都合。惜しまれる快感を存分に味わおうと、舌なめずりしてるはずだ。

 だいたい「次、君ね」ができた総理なんて、これまでどれほどいただろうか。舞台裏でのキングメークとは、わけが違う。舞台上で「次、君ね」と言い渡して、国中がその流れに乗っかり、従う。自分のパワーを見せつけたのだ。さぞや気持ちがいいだろう。

 その上、後で惜しまれると思えば、快感の増大は底知れず。これまでにも増して浮れた言動が相次ぐのも道理。絶対権力者気分を満喫するのに忙しくて、最後はろくに働いてもいなかった。

 快感に忠実、小泉流ってそういうことだ。

 それにしても、お世継ぎご指名なんて、童話のなかの王様じゃあるまいし。くらべて、現実の皇室はどうだ。

 さしたるビジョンもなく、目立つことをやりたいから小泉が手をつけた、皇室典範の改正。安倍は、男系を維持するための旧宮家の復活を支持しているが、これはとても興味深い。

 秋篠宮と同じく次男ながら、政治家として父・晋太郎の後をついだ、安部晋三。彼には、2年前に参議院議員になった弟がいる。母・洋子の兄、つまりは岸信介の長男の、その養子として育てられた、岸信夫だ。岸信介の直系の孫と言われるべきは、この弟であり、すでに息子もいる。

 一方の安倍には、子供がいない。

 ここまでちょっと調べてみて、唯一の兄弟総理、岸信介と佐藤栄作の名字が違う理由を、今さらながらたどったところ、岸信介が父親の実家の養子になっていたことを知った。昭和の妖怪も、養子だったのだ。

 養子を繰り返して、家を、家系を守る。そんな家に育った安倍が、「旧宮家復活もアリでしょ」という立場をとるのは、当然。自分も、血統が一番の売り物なんだし。

 弟が自分たちの実の父親を「おじちゃん」と呼ぶ、上流の家族。私なんぞは、子供の頃に見た映画『犬神家の一族』に重ねてしまう。家という化け物に呪われた、おどろおどろしい世界。

 もしも映画『岸家の一族』をつくるなら、主役には安倍の母親をすえたい。昭和の妖怪のお嬢様として生をうけ、コワモテの権力者、闇の世界の大物たちにちやほやされもしたろうが、嫁いだ夫は総理になれなず。その使命を息子に果たさせたものの、後継ぎ問題は今後もなにやら波乱含み。

 2時間の映画にはおさまりそうもない。お昼の連続ドラマで半年放送できると思う。

 ファーストレディになりそこねたイラだちをねちっこく描くあたりが、『岸家の一族』あらため、昼ドラ『渡る世間は妖怪ばかり』の見どころだ。総理大臣の外遊のニュースを見て、国賓として迎えられ誇らしげな総理の妻に激しく嫉妬、歯ぎしりする主人公。そんなベタなシーンも欲しい。

 おばさん視聴者の共感を得るはずだ。テレビで政治家の妻を見れば、「このスーツ、若作りよねえ」「あら、このコート高いわよ」とチェックに目を光らせるその原動力も、嫉妬と羨望だから。

 ところでこの5年間、ファーストレディは不在だった。

 小泉は一貫して、中高年の女性から高い支持を得てきたが、その支持は、小泉が独身であることに由来する部分が大きかったと私は思う。総理の妻の存在は、品定めという小さな娯楽を与えるが、容易に反感を招く。リスクは大きい。

 この5年間、盛んにテレビに登場した小泉のかたわらに、妻がいたらどうだったろう。ブッシュの別荘にお呼ばれを受け、カウボーイ姿ではしゃぐ小泉の横に、カウガールを気取る中年女がいたら。

 外遊やら有名人との対面やらにはしゃぐ、快感に忠実な小泉を、おばさんたちが好意的に見ていられたのは、妻の不在あればこそ。

 独身総理には、戦前に挙国一致体制を整えた平沼騏一郎(後に平沼赳夫を養子にした)の例もあり、初めてではないが、テレビ時代となった今、独身であることの意味は大きい。

 そこそこ見てくれが良くて、妻の影なし。姉の影はあるものの、ハンカチ王子こと早実の斎藤佑樹投手が母親の存在を強く感じさせておばさん層の人気を得てしまったように、年上の女の肉親の影は、好感を持たれる。気持ち悪い話になるので、ここではその構造に深入りはしませんが。

 とにかく。小泉は、少なくない数のおばさんたちの飽くなき性欲と、性欲の近所に巣くう権力志向をそそり、アイドル総理、ダッチハズバンド総理として、支持され続けた。

 おばさんの性欲などどうでもいい、と軽んじてはいけない。何の得にもならない、支持率調査の電話に答え、数字を押し上げてるのも、視聴率の鍵を握るのもこの人たち。そして、売れている評判がさらなる売り上げを生み出すように、高い支持率は支持者を増やす。

 さて、安倍には妻がいるが、最近はあまりテレビなどに登場させていない。安倍が「行列のできる幹事長」などと騒がれた頃は、顔をだしまくっていたのに。

 森永製菓の社長令嬢、聖心女子大卒、元電通勤務。ブランドづくしで、若い。反感の火種が数多い妻を、ひっこめた。この作戦は悪くない。しかしファーストレディになったら、隠してもいられない。自民党広報チームとやらのお手並み拝見だ。

 今のところ、小泉のように性欲をそそらないのに、安倍もおばさん人気は高い。家柄のおかげだろう。いい家柄は、権力志向のおばさんたちの大好物だから。

 だが、その家柄のせいで、安倍はいろんな筋のおつきあいを引き継いでいる。怪しげなおつきあいも数多い。いろんな人たちが、安倍を使おうと手ぐすねひいている。それを断ち切れるはずもなく、その気もないから、家族のおつきあいを丸ごと総理の立場に持ち込むことは間違いない。私たちも背負わされるわけだ。

 さらに迷惑なのは、つきまとうお坊ちゃまイメージを払拭しようと、安倍がやたらとマッチョな発言に走ること。小泉が使ってきた、党内の抵抗勢力という仮想敵はもはや使えないが、ファイティングポーズを見せておかないと野次馬たちの興味をひきつけられない。

 だから、安倍は勇ましげな発言を続けていくだろう。

 ケンカをしなれていないヤツのケンカは危ない。いきなり刃物を持ち出したりするからね。

 どうなっても、小泉が楽しい毎日を送ってることだけは間違いない。在任中に浸透した言葉、セレブとして優雅に暮らす。アメリカでパーティにお呼ばれしてロマンス発覚とか。小泉祭りは終わってくれない。
[PR]
by hiromi_machiyama | 2006-10-04 21:08 | 雑誌原稿アーカイヴ
<< そう、そうなのよ 「週刊朝日」06年9月22日号... >>
トップ

放送作家・町山広美の日記
by hiromi_machiyama
ライフログ
フォロー中のブログ
メール
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧