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『ノーカントリー』&『タクシデルミア』
おとついのエントリで、
「北京五輪開会式の演出をチャウ・シンチーに」
なんて夢想してますけども、
今の中国が誰はばからずに表明する「ビンボーへの嫌悪」に対して、
「なぜあなたたちは自己否定をするんですかぁぁぁ」と、
と訴えるのがチャウ・シンチーなのですよね。

もしもチャウ・シンチーが日本語をしゃべれるとしたら、
絶対に丁寧語になるという気がします。
サンボマスター山口みたいな口調。

ところで、
そんな北京五輪の聖火リレーが終った日本では、
『ノーカントリー』
が早くも都内の大きな映画館で上映終了とのこと。
女子供が見たがらないからでしょうか。
残念なので、
『In Red』3月号に掲載された原稿をアップしておきます。

ちなみに、『ノーカントリー』は、
仕事で「カラマーゾフの兄弟」を読破した直後に見たので、
「うひゃあ、すげードストエフスキーっぽい」と思ったのでした。
原作の『血と暴力の国』も近々読んでみたいですが、
どうやら「カラ兄」並みとは言わずともかなり長いみたいで、
びびります。

原稿は、『タクシデルミア〜ある剥製師の遺言〜』との二本立てで
書きました。
『タクシデルミア』もおすすめ。
『ノーカントリー』以上にすすめる相手を選びますが。
というわけで、以下、原稿。





「生死について暴力的に問う 
    人間ってなんだああああ」



 24才の頃、高校からの友達が事故で死んだ。
 葬式で泣いたものの、上っ面な涙なのがわかり、
自分が不気味に思えて仕方ない。
 そんな時、
『スイート・スイート・ビレッジ』というチェコ映画を見た。
 農村のとぼけた暮しが愛らしく描かれるなか、
墓地の崖下、埋められたいくつもの死体の横で暮らす家族が、
大事に飼ってきたうさぎを
「さあ、ごちそうだぞ」と吊るし切りする場面。

 涙がどっと溢れた。
 うまく説明できないけれど、
動物の死体を食べて生きてる自分もやがて死体になる、
あたりまえのそのことを映画に見せられてやっと、
頭の鈍い私にも、死を実感できたのかもしれない。
涙が止まらなくて困った。

 珍しい話ではないと思う。
死を理解できない理由の一つは
命、精神、肉体が頭の中でバラバラでしかないから。

 タイトルが「はく製」を意味する『タクシデルミア』は、
とてつもなくグロテスクな映画だ。
 性的快感の獲得を人生のすべてとする祖父、大食い選手の父、
そして息子は性欲も食欲も極めて薄い、はく製師。
 3世代の日常をオムニバス形式で、
性器、吐瀉物、死体にまみれつつ描く。
 食事どき前後にはおすすめできない、エログロ満載の90分。

 性欲、食欲、勝利欲や征服欲。
 欲望にふりまわされるのは肉体か、精神か、命か。
 その極限的な答えを提示する衝撃的なラストまで、
すさまじい映像の連続。
 エグい、でもすっとんきょうで笑える。
 言わば、ダサキモグロかわいい。
 そしてなにより、「人間ってなんだあああ」という問いに打ちのめされる。

 何でもモロ見せ。
 でも露悪趣味とはまるで別物。
 反転が巧妙に仕掛けられている。
 原水爆の発明者から投資王ソロスまで
現代の天才を量産してきたハンガリー生まれの、
若き監督の異能に圧倒される後味は、一番近い言葉で言うと、
感動だと思う。

 他人の肉体は、
今すぐ死体にするかどうかという二択でしか見られない。
 自分の肉体も、殺人の道具として認識するのみ。
 『ノーカントリー』には、そんな殺し屋が登場する。
 ペネロぺ・クルスの現恋人がへんな髪型で演じて超不気味。

 監督のコーエン兄弟は得意の、
間がヌケてるからこそゾッとする殺人シーンを連打、
前半30分の緊張感は強力で、サスペンスには違いないが、
人の命についての哲学本を読んだような、静かで深い余韻が残る映画だ。

 金銭欲でも快楽のためでもなく殺人を重ねる殺し屋を追う、
人情肌の保安官の表情は暗い。
 コイン投げの結果次第で人殺しを遂行する殺し屋は、
殺される側にとって理不尽な存在だが、
そもそも人の死は理不尽なもの。
 心がきれいでも早死にする人がいるし、
長生きの悪人もいるし、その逆も。
 生死は偶然、それが現実。
 純粋な殺人マシーンのごとき殺し屋は、
「罪とは何か」を問い、神の不在をつきつける。

 ふりかえれば、友達の死を私が理解できなかったのも、
生死の偶然という現実を受けいれられなかったのが、
もうひとつの理由だと今ならわかる。

 2本とも猛烈に残酷な映画だ。
 「人を殺してみたい」なんて思いにとらわれている若者には、
ぜひ見せたいほどの残酷さ。
 そんな稚拙な願望を、吹き飛ばすだけの破壊力がある。
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by hiromi_machiyama | 2008-04-26 22:32 | 日記
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