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映画レヴュー『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』 『ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハード』
                 『In Red』2019年1月号掲載



好きな服を着よう
自分が好きな服を


ココ・シャネルがジャージ素材を採用した時。
マリー・クワントが、ミニスカートを提案した時。

女の服装が「あるべき姿」からはみだすと、社会は嫌悪で迎えた。
見える景色が変わることに、社会の変化を察知するからだろう。
女は景色じゃないのにね。


だからこそ、ファッションは面白い。
自分が着たい服を着るのは、けっこう大事なことだ。



70年代のはじめにロンドンで音楽と同時発生で生まれ、今はファッション においてジャンルやテイストのひとつに落ち着いているパンクは、登場した時、 社会からとりわけ嫌悪された。
そのファッションの生みの親で、以降40年、最前線に居続けるその人に3年間密着したドキュメントが、『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』だ。


全部見せてくれる。
なにしろ、ブランドのコレクションは現在、ヴィヴィア ン自身は指揮にまわり、25歳年下の夫アンドレアスがつくってること、元は彼女の教え子だった夫が現場を率いるのにスタッフが不満を持っていることなんかが、明かされてしまうのだ。

そしてこの映画は、ヴィヴィアンが拘束衣をヒントに発明し、セックス・ピストルズのメンバーが着て社会に衝撃を与えたはずのその服が、今や博物館に保存され、学芸員がうやうやしく開陳するその様子に荘厳なクラシックを流して、なにやら茶化してみせもする。
偉業だけれど、これって死体だよね、とでも言いたげに。


ヴィヴィアン自身も、パンクは、唾する者も受け入れる英国社会の懐の深さを喧伝しただけ、社会を変えられなかったと振り返る。


では諦めたのかといえば、全然違う。
最近もデモの先頭に立ち、熱心な活動 でスタッフを困らせたりしている。


周りにモデルがいようと、その場で一番、自分の服をかっこよく着こなしているヴィヴィアン77歳。
ビジネスの巨大化グループ化が進むファッション界で、DIY=自分で作るというパンクの精神を譲らず、独立して事業を続けられているのは、過去の二人の夫との間の息子たちも、52歳の時に結婚した年下夫も彼女への敬愛を深めるばかりなのは、なぜか。


だんだん見えてくる。
今も店に自転車で通うように、自分の頭で考え続けて、安住しない。

ヴィヴィアンの信条は、疑問を持ち続けて、かかわり続けること。
それは、自分自身を手放さないための確かな方法だ。




二人目の夫マルコム・マクラーレンが、 夫婦で経営する店「SEX」の店員と常連を束ねてピストルズをつくった頃。同じくロンドンで、「バンドをやりたい」と動き出してる女の子たちがいた。

76年に結成された、世界初の、女の子だけのパンクバンドをそのはじまりからたどるドキュメンタリーが『ザ・スリッツ:ヒア・トウ・ビー・ハード』。
スリッツが意味するのは、女性の身体の真ん中に開いてるあの部分でもあり。


バンドの支柱、ボーカルのアリ・アップは、結成当時14歳だった。
残っている映像はあまり多くない。
「歴史から消された」と研究者の女性は憤る。



あらゆる権威に歯向かうはずのパンクは、暴力性を高めるうちに男性優位主義を強め、ナショナリズムにさえ接近していった。
スリッツは短い活動期間ながら、自分たちの音楽を探し、ステージで踊りまくり、レゲエやエスニックなサウンドにも自由に触手を伸ばしていく。
闘いながら。



ベースのテッサが部屋でスクラップブックを読み返す様子を親密な縦糸に、みんなに「できる」と思わせてくれた、亡きアリ・アップという中心の空白に収斂していく構成に愛がある。


女の子が好きな服を着てるだけで殴られた時代に、好きな服を着て言いたいことを言うんだ!と闘って、自分たちだけの表現を探し続けた。
勇敢な、世界初の行動は、現状に疑間を持つ後輩たちを鼓舞し続ける。


by hiromi_machiyama | 2019-01-01 21:03 | 雑誌原稿アーカイヴ
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