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映画『インファナル・アフェア3 終極無間』
            …「アサ芸エンタメ!」05年?月号掲載



『インファナル・アフェア3 終極無間』
 
 マフィアがらみの3部作として、『ゴッドファーザー』香港版とも言われる『インファナル・アフェア』シリーズ。第2部『無間序曲』では、作り手も『ゴッドファーザーPART2』を意識したことは明らかで、マフィア稼業をついだカタギの2代目の焦燥が重要な要素として描かれ、ロマンチックなドラマに仕上がった。
 3作目のテーマを「罪のあがない」に設定したのも『ゴッドファーザー』と同じ。しかし、イタリアン・マフィアのカソリック信仰に対し、こちらを支配するのは仏教の精神。行き着く先は、贖罪なき無間地獄。どんな血の惨劇が展開するのか、と期待して「インファナル・アフェア三」の完成を待っていた。
 だが、しかし。『ゴッド・ファーザーPART3』は、監督=父ちゃんに抜擢された素人娘、ソフィア・コッポラが台無しにしてしまったが、こちらも似た結果。ケリー・チャンがひっどい。眉間のシワの操作だけで演技をしたつもりになっているこのモデル(女優ではない)のシーンは全部いらない。男と男の世界につかりに来たのに、へたくそなラブコメで中断されるとは。ああ、おっさんたちの男気に泣かされた第2部が恋しいぜ。
 眉女が出しゃばるまでの前半は、わくわくさせる。警察からマフィアに潜入したヤンと、マフィアから警察に潜入しているラウ。物語は一作目のラスト、二人の対決の直後から始まり、対決前と時間を複雑に行き来し、スピーディーにダークに進行していく。生き残ったラウは自らの過去を葬ろうとする。そこに現われる邪魔者、エリート警官ヨン。果たしてラウは、山積みの死体を踏み越えて、「善人として生きる道」を進むことができるのか。
 ヤンやヨンは、ラウのもうひとつの自己でもある。ラウは自分と闘う。とまあ、そんな哲学的な方向へ展開したら、わけわかんない話になって当然。でもそれでいい、突っ走るべきだった。信念に殉じる男たちの色気を過剰なまでにまき散らし、スピーディーでダークなこのシリーズの持ち味を加速させて、玉砕。そうすれば良かったのに、つまらん恋愛話にそれて、ちんまりまとまってしまった。
 そもそも、男と男の命の削り合いを描く映画は、ひとつの世界観で貫かれたファンタジー。「ハリーポッター」の世界に魔法が存在しても超能力が存在しないように、男と男の疑似恋愛の世界に、女は不要だ。男女の恋愛がからむとしても、最後に男が女よりも男を選ぶ、そのドラマを盛り上げるための道具でしかあり得ないはずなのだ。
by hiromi_machiyama | 2006-08-16 19:00 | 雑誌原稿アーカイヴ
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