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映画『血と骨』
            …「アサ芸エンタメ!」04年?月号掲載



『血と骨』

 おしゃれ女子必修映画『ティファニーで朝食を』のオードリーを、チァン・ツーィイーにやらせたい。近未来のかっちょいい画をオレも撮ってみてえ。そんなCMサイズのベタな思いつきに、不相応な大製作費をぶちこんだ映画が『2046』である。金集め に利用された木村拓哉にとっては災難かも。エンドロールの流れる数分間、韓国企業「LG電子」のネオンサインが映り続けるのに笑った。ウォン・カーウァイ監督ってほんと商売上手。
 『おもいッきりテレビ』のコメンテーターでお馴染みの崔洋一も 、なにかと目端のきく監督だ。梁石日 が 実父 をモデルに巨漢の怪物、金俊平の生涯を描いた小説「血と骨」を映画化するにあたり、巨漢には程遠いビートたけしを主演に迎えた狙いは、話題性。鈴木京香とのセックスシーンという話題で客を誘い、スケベな期待には他の女優で応えて、しっかり帳尻を合せるあたりもお上手だ。
 たけし起用の今ひとつの目的は、「暴れてるかヤッてるか」が常態の怪物に、少々のユーモアをもたせること。昭和初期から中期にかけての、大阪の朝鮮人集落が舞台。済州島から渡ってきた金俊平は、金儲けと子づくりにすさまじい欲望を燃やし、その業火へ、ものにした女も、やみくもにつくり倒した子供も容赦なく投げ込み、犠牲を強いる。斧やこん棒を振り回し、女子供も殴り倒す非道ぶり。あまりにひどすぎて、笑うしかなくなる…という効果を狙ったはず。
 実のところ、私は笑った。凶器をもちだす荒っぽい親子ゲンカ、あちこちにいる年の離れた異母姉妹。よく似た体験を、韓国人の父親を通して私自身がたまたましているせいだろう。でも、試写室で笑いはなかなか起こらなかった。
 口当たり良く「家族の物語」なんぞに薄めず、金俊平に集中すれば違ったと思う。怪物に驚きたい人は、物足りなく感じるはずだし。金俊平を遠巻きのままに終わるもどかしさ。それでいて、朝鮮人集落から話が広がらない。濱田マリ演じる日本人の愛人が、怪物とどっこいどっこいの欲望でぶつかり合うあたりを除くと、金俊平が燃やす凶暴な業火は観客から最後まで遠い。北朝鮮に渡る最期を描くなら、彼にとって故郷、済州島 はどんなところだったのか、触れる選択もあったろうに。
 無条件に存在を肯定されることへの飢え。少なくない人が抱えて生きるその飢えが、金と子供をむさぼるように欲した怪物の業火の中に見えた気がした。でもぼんやり、遠のいてしまったのだが。
by hiromi_machiyama | 2006-08-16 20:51 | 雑誌原稿アーカイヴ
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