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映画レヴュー 『アンダー・ザ・シルバーレイク』        『運命は踊る』
                『In Red』2018年10月号掲載



闇の陰謀か 神の仕業か
生きづらさを生きる


もしもこの世のすべてがフェアに執り行われ、持って生まれた条件になんら左右されず、運にもいっさい翻弄されることなく、夢をかなえるために必要な情報もすべての人に等しく与えられているとしたら。

そこは天国のようで、地獄かもしれない。

願い通りに生きられない理由のいくらかを心の中で、何かや誰かや運のせいにして、私たちは正気を保っているのだから。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』の主人公サムは、一目惚れをする。
監督か脚本家か、とにかく成功を夢見てハリウッドへ出てきたのに結果を出せない、家賃も払えない現実から目をそらしてくれる、夢の美女サラ。
あっけなく知り合うことができ、デートの約束を取り付ける。

でも、彼女は消えた。

なぜ消えたのか、サラは何者なのか。
なにやら大きく深い闇が見えてくる。

才能には秘密のからくりがあった、やっぱり。
金持ちは死に方を選べる、やっぱり。
その謎を解くヒントをサムは次々と見つけ、解読に挑むのだが。

ひどく奇天烈で、けれど切ないミステリー。
たくさんの名作映画、ポップカルチャーに読みつなげられる断片が全編に散りばめられ、それを読み解くのが楽しい映画だが、暗号にこだわらずに見ることもできる。

これは青春映画だから。
サムは長引いた青春の時間が終わることを感じて、もがく。
夢の美女は、故郷を出てきた頃の明るい希望の投影だ。

サム役を演じ映画を引っ張るのは、アンドリュー・ガーフィールド。
近年、心身ともにしんどい大作に次々主演してきたが、今回またも怪優への道をぐっと前に進めた。

監督・脚本のデヴィッド・ロバート・ミッチェルの前作は、大当たりしたホラー『イット・フォローズ』。
期待された次作で、こんなにも俺流の奇想をぶちまけるとは。
ホラーもミステリーも青春方向に引っ張ってしまうこの特性を、注視したい。

華やかな世界には裏があり、その仕組みは隠匿されている。
そう考えることは安らぎだし、処世術としても有効だ。

そして実際、この世はフェアではなく、事故は起こる。
戦争をしている国に生まれてしまったら、戦地に送られることもある。
戦地では事故も起こる。

『運命は踊る』は、戦時でなかったことはほとんどないイスラエルの映画だ。
ある夫婦のもとに、息子の戦死が知らされて、映画が始まる。

この冒頭から、見たことのない映像とその話法に惹きつけられる。
訃報にショックを受ける家族の、室内のシーン。
ただそれだけなのに、意表をつかれることの連続だ。

しかし、その死は誤報。
安堵する間も無く父親は、息子の呼び戻しを強く要求する。
ここまでが第一幕。
ギリシア悲劇を模した、三幕構成だ。

第二幕に登場するのは、兵士とラクダ。
息子は検問所にいた。
兵士たちはみな若い。
通行する車を止め、身元確認の取り調べを行う以外は、ラクダを見送り、缶詰を食べ、仲間と駄話をして宙づりの青春タイムをやり過ごすが、その指はマシンガンの引き金にある。

この、緊張感と退屈が混濁した時間の描き方が素晴らしい。
サミュエル・マオズ監督の才気に惚れ惚れしていると、惨事が起きる。

原題は『フォックストロット』、ダンスのステップの名称だ。
四角を描いて、元の位置に戻る。
民族の遺恨を背負い、戦争を続ける国に生きる、死の近くに生きるということ。
父親は、自分のそして家族の運命を書き換えようとしていたのだが。

偶然を神の仕業と読み変えることの、安らぎと痛み。
世界の裏で動く陰謀に思いめぐらせることで得る、期待と諦め。

どうあれ、生きることはすでにそれだけで困難なのだと、映画は教えてくれる。


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by hiromi_machiyama | 2018-10-15 00:05 | 雑誌原稿アーカイヴ | Trackback
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